自分が加害者とならないように

● 自分が加害者になっていることもある

 もしかしたら自分が知らないうちに加害者になっているかもしれないと思ったことはありませんか。
 指導に熱心なあまり、後輩を叱咤激励しているつもりでも、周囲からは「あの人が関わると新人がどんどん辞めていく」と言われているかもしれません。
 いじめというのは、被害者の心の受け止め方によります。例え指導者側がこの子の将来のためにと良かれと思って指導していたとしても、指導される側が「つらい、もう耐えられない。これはいじめかも…」と思ってしまえば、それはいじめと判定されてしまいます。
 また、周囲で「あの人のシゴキはひどい」と有名になっていたとしても、本人は全く無自覚である場合がよくあります。自分が指導する立場になったり、上司になったりした場合にはどのようなことに気をつけていけば良いのでしょうか。

● 世代のギャップを意識する

 「ゆとり世代」という言葉が使われ始めてしばらく立ちましたが、やはり世代間のギャップはかなり大きいものがあると自覚することが大切です。
 現在のアラフォー世代は「詰め込み学習」が当たり前の時代でした。偏差値で評価され学習の方法も努力するのが当たり前、ランクをつけられるのも当たり前の世代です。先生方から厳しいことを言われても「愛のムチ」と感じることができる世代です。
 ところが現在のアラサー世代は、「ゆとり世代」と言われ、やる気があれば評価され、褒めて個性を伸長し認められる時代です。
 
 つまり、同じ厳しい指導を受けたとしても、「自分に期待してくれるからこそ厳しく指導してくれるんだ」と感じることができる世代と「それはいじめやパワハラ」と感じる世代があるということです。さらに言えば、現在の20代はゆとり世代が先生になっている世代でもあります。そのため、さらに褒めて伸ばされるといった風潮の中で育ってきていますから、さらに指導には慎重にならなければなりません。
 
 指導者側に立ったときは、同じ指導、同じ指示を行ったとしても、受け取る側の育ってきた環境によって大変な違いがあることを意識し、誤解を受けない指導法や話術を身に付ける必要があります。

● パワハラとなってしまう事例を知っておく

 パワハラと受け取られてしまう言動を知っておくことで、自分自身が誤解を受ける言動をしないように気をつけることができます。現在では、指導者がパワハラやセクハラなどの誤解を受けないための研修も実施されています。もしも自分が指導者側の立場になる場合には、このようなことを学んでおきたいものです。
 
 パワハラとなる「攻撃・否定型」の典型的な事例は、以下の通りです。
 言動での直接的な攻撃のように感じられる行為と相手の人格を否定するような言動が含まれます。本人に直接的な攻撃を加えることだけではなく、周囲にもそうするように唆すことも含まれます。

・ ほかの看護師や患者が居る前で大声で怒鳴る
・ 一人だけ密室に呼び出して大声で怒鳴る
・ 相手の言い分を話す機会を与えず、いきなり叱る
・ 机や椅子を叩いたり蹴ったりしたり書類を破るなどの行為
・ その人がいないところで悪口を言いふらす
・ 困っている様子に気づいているのにも関わらず、相談に乗らない、あるいは指導しない
・ 能力を意識的に低く評価し、そのことを話して、脅かす
・ 無視をしたり周囲の人にも無視をするようにいう

 その他に、「強制・妨害型」もあります。
 自分のやり方を強く押し付けたり、業務などを必要以上に押し付けたり、あるいは必要とされる仕事を意図的に与えない場合も含まれます。

・ 自分のやり方を必要以上に押し付ける
・ 明らかに達成できないような無理な目標設定を押し付ける
・ 責任を擦り付けるなどの行為
・ サービス残業を強要し、休みを取らせない等の強制

 さらにパワハラとされる事例についての詳細と、パワハラによる賠償金等の事例などについては以下のサイトをご参考にしてください。
⇒ http://www.heart-c.com/category/1442963.html

 加害者には全く自覚がなく、自分は教育指導の一環として行っていると思っていることが大変多いです。つい指導に熱心になってしまうタイプや両親や部活の先輩などに厳しく指導された自覚がある方は、「当たり前」と思っている行為の中に現在ではパワハラとされてしまう言動があります。特に注意して慎重に指導しましょう。

● パワハラと勘違いされないために

【相手の理解度を確かめながら指導する】

 まず、指導する際には、対象者がきちんと理解して付いてきているか表情をよく見て時には質問事項を入れて確認しましょう。もしもなにか質問したそうな雰囲気だったりなにか困っているような表情の場合には、「何か質問がある?」等声がけをして気持ちを引き出します。
 新人は「先輩や指導者に話しかける」タイミングがうまくつかめない人もいます。ミスをした時にもただ叱るのではなく、なぜそうなったのか、どのような状況でそうなったのか等、きちんと相手の話しを聞く態度を作ってじっくりと話を聞くことが大切です。
 人によっては技術や知識の習得に時間がかかる人もいます。理解していないなと感じたら、よりわかりやすい表現にし具体例などを織り交ぜて丁寧に指導しましょう。

【非難するだけでなく具体例を織り交ぜて説明する】
 
 「最近の新人はメモも取らないし、遅刻も平気なのよね…」
 新人の中には、メモを取らずに聞き流し、何度も同じことを聞いてくる人もいます。つい覚えられないならメモぐらい取りなさいよと言いたくなってしまうものですが、そういった場合には、「メモをとっておいたほうが、復習したりレポートを書いたりするときに便利だよ」等、具体的にわかりやすくメリットを説明してあげると効果があります。
 ただ非難するだけではなく、「具体的にはこのような行動が望ましい」といった方向も教えてあげることが大切です。

【大勢の前や患者の前では大声で叱らない】
 
 看護師の仕事は命に関わる重要な処置もあります。たとえ新人であったとしても、許されないミスをした時には、即指導する必要があります。
 どんなに感情がカッとなったとしても、大声で怒鳴ってしまうのは逆効果になりますし、パワハラと勘違いされてしまうこともあります。新人も大変緊張しながら処置をしていますので、大声でミスを指摘されることで余計にパニックになり、せっかく正しい処置方法をその場で指導しても、頭に入ってきません。
 ミスを指摘するときには、激昂したままに怒らずに、一旦クールダウンしてからあくまで優しい声でゆっくりと話しかけましょう。

【一対一で話すときには】

 ほかの人が居る前で叱ることはあまりよくありません。本人もとても恥ずかしい思いをしますし、パニックになってしまうとどんなに大切な指導をしたとしても理解しにくい状況になってしまいます。
 そのためちょっと時間を置くか場所を移して相手に指導することになるのですが、特に一対一で話すときには、「サンドイッチ式」で話すように心がけましょう。

 サンドイッチ式とは、本当に指摘したいミスや指導内容の前後に、相手を認める言葉をかけて上げることです。アメ・ムチ・アメといったところでしょうか。
 はじめに今日の処置でよかったところや昨日よりも改善できていることを話します。体調を気遣う言葉でも良いかもしれません。そこで相手がなんでしょうと聞く体制が出来てから、「実はね…」と本題の指導内容を話します。相手の表情を見ながら、丁寧に話しかけましょう。もしも、相手が話の途中で話しかけたそうにしていたら、相手の話をしっかりと最後まで聞いてあげることも必要です。
 最後に指導が終わったら、もう一度、「でも、この処置はよくできていた」とか、わからないことがあったらすぐに相談してと優しく気遣う言葉を入れます。
 このサンドイッチ式で話すと、指導内容は同じであっても、新人の人はストレスを強く感じずにリラックスした状態で話を受け入れることができますので、より伝わりやすくなります。

【相手の理解度をチェックする】

 人によって手で書いたほうが覚えやすい人と、耳からの情報が覚えやすい人がいます。その両方だとより記憶に残りやすくなります。また、学んだことは時間を置いて再度確認し復習することでより定着しやすくなります。具体的には1日後、3日後、1週間後、1ヶ月後など忘れた頃にもう一度チェックると確実に定着させることができます。
 指導直後に確認する方法は、「復唱させる事」「作業を実際にさせてみること」が大切です。直後に自分でやってみることでより印象に残りやすくなりますし、曖昧な部分をチェックすることができます。
 指導後に数日たってから、ペーパーテストや実施テストなどをして、確認すると指導者も理解度をチェックすることができますし、知識もより定着しやすくなります。

● 感情的にならないようにクールダウンする方法

 忙しかったり体調が悪かったりすると、たいしたことのないことでもついカッとなってしまうこともありますとにかく感情的にならずにクールダウンする方法をいくつか知っておくと冷静に対処することができるようになります。
 人は怒りを10秒保つことができないそうです。ムカムカっときたら心で10数えてみましょう。クールダウンしていることに気づくと思います。
 深呼吸をするのも効果的です。落ち着いた声でゆっくりと話すことで相手も自分も感情的にならずに済みます。
 その他に「シャーペンの先等尖ったものを集中してみる」というのも効果的なようです。瞬時に来るカットした怒りが収まるのを待って、具体的な事例を交ぜて丁寧に指導してきましょう。 

● 更年期障害のイライラには

 45歳前後になってくると、更年期障害による女性特有のイライラが始まってきます。生理の前後にイライラするといったことはよくありますが、更年期障害が始まってくると普段全く怒らないのんびりした優しい人でも、まるで人が変わったように表情が険しくなり、理不尽な理由で突然火を噴いたように激しく怒り出す場合があります。
 月経の周期に乱れが生じたり、量の増減、顔が急にカーっと熱くなったり、異常な発汗やイライラを感じ始めたら、更年期障害の症状かもしれません。閉経には個人差が有り、ストレスや体調によって閉経前にもそのような症状が現れることがあります。薬で症状を和らげることができますので、「もしかして…」と思った場合には早めに受診してみてください。
 更年期障害による症状は人によってたいへん重かったり、そんなに違和感を感じなかったりと個人差がたいへん大きいです。それに、理不尽な理由で突然人が変わったように怒鳴りだし、大声で突然泣き始め、行っていることが支離滅裂に感じられるため、周囲から冷たい避難の目を浴びることもあります。
 自分も損しますし、つらさを周囲の人にわかってもらえずに人間関係が悪化してしまうこともありますので、45歳ぐらいになってきたら自分のこととして捉えておくようにしましょう。家族や同僚に診断結果などを話して、こういう事が起こるかも知れないからよろしくと伝えて、自分で感情がコントロールできない時にはフォローしてもらうことも大切です。

⇒ https://www.selfdoctor.net/q_and_a/2002_09/kounen/02.html

● 指導者講習会に積極的に参加する

 パワハラと勘違いされないようにするための指導研修会が開かれています。自分に指導力や人心掌握の力があると自信がある方や、始めてプリセプターになる方等、機会を見つけて学んでおくと良いと思います。
 一度パワハラなど訴訟問題になってしまうと、加害者だけでなく病院も大変な打撃を被ります。リスク管理の一つとしてぜひ講習会等がありましたら積極的に参加してみてください。

 以下にパワハラ度チェックができるサイトをご紹介します。自分自身働き方の改善のヒントにもなりますので、「自分は大丈夫」と思っている人ほどやってみて欲しいと思います。

⇒ http://www.adm.kanazawa-u.ac.jp/ad_jinji/sogosodan/checklist.html